戦艦の名前には規則性がある。
厳格に決められている国もあれば、結構適当な国もある。厳格に決まっている国なら、艦名だけで軍艦の種類がわかったりもする。
ヨーロッパ諸国の命名法
海軍王国のイギリスは意外にも、戦艦の名前にはっきりとした決まりがない。人名だったり単語だったり地名だったりとばらばらである。
新型戦艦であるキング・ジョージ五世級やネルソン級は人名が用いられている。「キング・ジョージ五世」「プリンス・オブ・ウェールズ」「デューク・オブ・ヨーク」「アンソン」「ハウ」「ネルソン」「ロドニー」。
ジョージ五世は第一次世界大戦中のイギリス国王、アンソンはオーストリア継承戦争で活躍した提督、ハウとロドニーはアメリカ独立戦争やフランス革命、ネルソンはナポレオン戦争で活躍した。
プリンス・オブ・ウェールズとデューク・オブ・ヨークは皇太子とその弟を指す言葉。他に地名である「マレーヤ」、単語の「リヴェンジ」や「ウォースパイト」がある。
フランスも人名だったり地名だったりする。「リシュリュー」や「クレマンソー」は人名で、「ストラスブール」「ダンケルク」は都市の名前。
リシュリューはブルボン朝の宰相、クレマンソーは第一次世界大戦中の首相。
ドイツも人名が多い。「ビスマルク」「ティルピッツ」「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」など。ティルピッツ、シャルンホルスト、グナイゼナウは軍人の名前。
日本とアメリカの命名法
人名を使用することが多いヨーロッパとは異なり、日本とアメリカは戦艦の名前に地名を採用した。特に日本は戦艦以外にも人名を使わなかった。
日本の戦艦は旧国名が採用されている。「大和」「武蔵」「長門」「陸奥」「伊勢」など。順番に奈良県、東京都と埼玉県、山口県、青森県、三重県の旧国名である。
日本海軍が軍艦の名前に人名を使わなかったのは、明治天皇が嫌がったからだという。
アメリカも戦艦には人名を使わず、州の名前を使っている。
「アイオワ」「サウスダコタ」「ワシントン」「ウェストバージニア」など。ここのワシントンはアメリカ合衆国初代大統領のほうではなく、ワシントン州を指している。
ただしアメリカは戦艦以外の軍艦には人名を使っていることも多く、人名をまったく使わなかったのは日本海軍だけであり、この慣習は戦後も続いている。
海上自衛隊は軍隊ではないという建前を守るため、巡洋艦や駆逐艦のことを「護衛艦」という名称で呼び、艦名をひらがなにしている。
たとえば「みょうこう」「たかお」「まや」「あたご」であるが、これらは旧日本軍の軍艦「妙高」「高雄」「摩耶」「愛宕」をひらがなにしただけ。艦名をひらがなに変えるだけで軍艦ではなくなるのだから、日本語とは便利なものである。